Mira Muratiの新会社が初モデル「Inkling」公開 — オープンウェイト975Bの勝負

元OpenAI CTOのMira Muratiが設立したThinking Machines Labが、初の自社開発AIモデル「Inkling」を公開しました。2026年7月15日のリリース。オープンウェイト(誰でもダウンロード・改変可能)で、総パラメータ975Bの大規模MoEモデルです。

🔍 Inklingの基本スペック

  • アーキテクチャ: Mixture-of-Experts(MoE)— 総パラメータ975B、アクティブ41B
  • コンテキストウィンドウ: 100万トークン
  • 学習データ: 45兆トークン(テキスト・画像・音声・動画)
  • マルチモーダル: テキスト・画像・音声をネイティブに理解(出力はテキスト)
  • 価格: $1.00/1M入力トークン、$4.05/1M出力トークン(OpenRouter経由)
  • 軽量版: Inkling-Small(12B active)もプレビュー公開

「MoE」をざっくり説明すると、975Bという巨大なモデルの中で、各タスクに関連する部分(41B分)だけを賢く使い分ける仕組みです。これにより、大規模モデルの性能を保ちながら、計算コストを抑えられます。

📊 ベンチマーク — 「最強」ではなく「バランス型」

Thinking Machines自身が明確に宣言しています:「Inklingは現存する最強のモデルではない」と。ではなぜ注目するのか?

Design Arena(人間が盲目評価でWebアプリを比較するベンチマーク)で、InklingはElo 1257を記録。オープンウェイトモデルとしては最上位グループに入ります。

  • Claude Sonnet 5: 1333
  • Claude Fable 5: 1329
  • Claude Opus 4.8: 1285
  • GLM 5.2: 1275
  • Grok 4.5: 1271
  • GPT-5.6 Sol: 1260
  • Inkling: 1257 ← オープンウェイト
  • Claude Opus 4.6: 1257
  • Gemini 3.5 Flash: 1254

クローズドモデルのトップ陣と完全に同等ではありませんが、オープンウェイトとしては驚異的です。特に、NVIDIAのNemotron 3 Ultraと比較して、コーディング性能を同じレベルに到達させるのに必要なトークン数が3分の1で済むとのこと。効率が良い。

🧠 Inkling独自の特徴

1. カスタマイズ可能な「思考 effort」

推論時の「考える深さ」を調整できます。簡単な質問にはサッと答え、複雑な問題には深く考える。この切り替えが開発者側で制御できるのは実用的です。

2. 不確実性を正直に伝える(Epistemics)

分からないものは「分からない」とフラグを立てる設計。ハルシネーション(もっともらしい嘘)を減らすアプローチで、エンタープライズ利用では信頼性の面で重要です。

3. Tinkerプラットフォームでファインチューニング

Inklingの最大の売りは「カスタマイズのベースモデル」としての位置づけ。Thinking Machinesは「Tinker」というプラットフォームを提供し、企業がInklingを自社用途にファインチューニングできます。

面白いデモもありました。Inklingに「自分自身をファインチューニングする」というタスクを与えたところ、モデル自体がファインチューニングのジョブを書き、実行し、結果を評価したそうです。自己改善ループの実証ですね。

💡 なぜこのタイミングで、なぜオープンウェイトなのか

OpenAI、Anthropic、Googleはすべて「汎用チャットボット」を最強にする方向で競争しています。一方でThinking Machinesの賭けは違います:

「組織が自分たちでカスタマイズできるAIが、一律モデルより勝る」

この戦略には現実味があります。大企業ほど「自社データでチューニングした専用モデル」を求めており、クローズドモデルではデータ送信の懸念やコスト面で限界があるからです。

Mira MuratiはOpenAIの元CTOという経歴もあって、注目度は非常に高い。1年半ほぼステルス状態でインフラを構築してきた成果が、このInklingが最初の公開プロダクトになります。

🔒 セーフティ面での課題

オープンウェイトモデル特有の課題もあります。ファインチューニングの自由度が高い分、安全でないカスタマイズを防ぐのは利用者側の責任になります。Thinking Machinesは「カスタマイズの責任は顧客が持つ」という立場で、これは実務的にはML専門チームを持つ企業向け、と言えます。

📝 まとめ

  • Mira MuratiのThinking Machines Labが初モデル「Inkling」を公開
  • 975B MoE(41B active)、100万トークンコンテキスト、マルチモーダル
  • 「最強」ではなく「バランス型のカスタマイズベース」が戦略
  • オープンウェイトで、Tinkerプラットフォームでのファインチューニングが可能
  • Nemotron 3 Ultraの3分の1のトークンで同等のコーディング性能

2026年のAI競争は「最強の汎用モデル」だけでなく「最良のカスタマイズ基盤」の戦いにもなりつつあります。Inklingはその最初の一石かもしれません。

公式リリース: Thinking Machines Lab – Introducing Inkling
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