AIエージェントを賢くする方法は、より大きなモデルへの交換だけではありません。OpenAIが2026年8月13日に公開した公式ガイドでは、同じGPT-5.6 Solでも、ハーネス(AIを動かす周辺設計)を変えるとARC-AGI-3のスコアが13.3%から38.3%へ向上しました。約2.9倍です。

性能差を生んだのは「推論の再利用」
標準ハーネスでの13.3%に対し、OpenAIは保持推論(retained reasoning)とコンパクション(compaction)を有効化しました。その結果、38.3%へ伸びただけでなく、出力トークンは約6分の1になったと報告しています。
保持推論は、前のターンで行った検討を次のターンへ引き継ぐ仕組みです。コンパクションは、長い作業履歴から後続処理に必要な状態を残しつつ、コンテキストを圧縮します。毎回ゼロから考え直さず、長期タスクで迷子になりにくくする設計です。
OpenAIが示した4つの設計原則
- 再利用する:推論状態を保持し、長くなった履歴は圧縮する
- 独立作業だけ並列化する:複数エージェントに分け、主エージェントが統合する
- 決定的な処理はコードへ移す:検索結果の絞り込み、重複除去、集計をモデルに読ませ続けない
- 安定した前置きをキャッシュする:共通の指示やツール定義を固定し、変動情報を後ろへ置く
Programmatic Tool Callingの本番評価例では、同等の評価品質を保ちながら入力トークンを21%削減しました。また、29,000トークンの共通プロンプトにキャッシュ境界とワークスペース別キーを設定した例では、非キャッシュ入力が28%減っています。いずれもOpenAIが紹介した導入企業の評価結果であり、すべての用途で同じ効果が出る保証ではありません。
マルチエージェントは「人数を増やせば勝ち」ではない
公式ドキュメントは、コードベースの別領域調査や複数資料の比較など、独立して進められる作業にマルチエージェントが向くと説明しています。一方、前工程の結果が次工程を決める一本道の仕事や、同じファイルを同時編集する仕事では、トークン増加や競合が勝る場合があります。
PL視点でいえば、担当者を増やす前にインターフェースと成果物を定義するのと同じです。分担単位が曖昧なら会議が増えるだけですが、入力・出力・完了条件が明確なら並列化が効きます。
考察:AI開発の主戦場は「モデル選び」から「システム設計」へ
今回の数字で重要なのは、38.3%という絶対値より、同じモデルでも周辺設計で性能と効率が同時に変わった点です。高性能モデルを全工程へ置くのではなく、判断はモデル、整形・集計はコード、独立調査はサブエージェント、共通知識はキャッシュへ分ける。これはAI版のE/Eアーキテクチャー設計に近い発想です。
ただし、保持推論、ネイティブ・コンパクション、マルチエージェントなどはResponses API側の機能です。ChatGPTの契約や、別のエージェント基盤で自動的に同じ機能が使えるとは限りません。導入前に利用経路と対応状況を確認する必要があります。
まとめ
- GPT-5.6 Solは、保持推論とコンパクションによりARC-AGI-3で13.3%から38.3%へ向上
- 同時に出力トークンは約6分の1となり、性能と効率が両立
- 鍵は、推論の再利用、適切な並列化、決定的処理のコード化、プロンプトキャッシュ
- AIエージェントの差は、モデル名だけでなくハーネス設計で広がる
